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『幸福の黄色いハンカチ』の主人公は高倉健ではない?

こんにちは。サロンの吉野です。
前回の記事で、主役と主人公が違うことが多いハリウッド映画についてお話してきました。
おそらく名だたる俳優さんが出演している場合、その人の実績を重んじて、例え主人公の役割ではなくても、クレジットも含めて主役扱いにするのではないかという推論を述べました。
確かにスーパーマンシリーズとかバットマンシリーズなどのヒーローものでは、敵役(悪役)を名優が演じることが多く、その際もその敵役の人が最初にクレジットされましたので、その推論は、あながち間違いではないと思います。


このようにハリウッド映画では、主役扱いで出演する俳優と、物語の主人公として出演する俳優の二重構造のようなキャスティングの仕方をしています。
それでは日本映画ではどうでしょうか。
ハリウッド映画のように、比較的分りやすいキャスティング構造ではありませんが、ちょっと特殊な構造かもしれないと思う映画をご紹介したいと思います。
それは日本映画史上、最高傑作との呼び声も高い『幸福の黄色いハンカチ』です。



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成長変化するのは高倉健ではない?
幸福の黄色いハンカチ』といえば、主役、主人公ともに高倉健さんだと思われている人がほとんどだと思います。
ただ、映画をご覧になった方はお分かりだと思いますが、高倉健さん演じる島勇作が語る人生の影響を受けて、自分たちは変わっていかなければならない!と成長変化していくのは、武田鉄也さん演じるキンヤと、桃井かおりさん演じるアケミの二人なのです。
二人は失恋という出来事があって、一人北海道の旅に出かけます。いわゆるセンチメンタルジャーニーです。
そこで二人は知り合い、勇作とも知り合うのです。
そして、勇作の過去の事件と、その妻とのエピソードに聞くにしたがって、何か自分たちに出来ることがあるのでは?と思い始めます。
そして例の黄色いハンカチのラストシーンがあり、二人は新しい恋を育んでいくことを誓います。
失ってしまった恋を、勇作という人物と接触することで、前向きな気持ちで新しい恋を成就させたのです。
まさに人間としての成長変化ですね。
それでは『幸福の黄色いハンカチ』の主人公は、武田鉄也さんと桃井かおりさんなのでしょうか?
それはやはり少し違うような気がします。


成長変化は健さんもしている
キンヤとアケミ二人の成長変化を、最大に促していく役割として、高倉健さん演じる島勇作がいるのですが、それでは勇作は、キンヤとアケミを成長変化させるための副主人公的な役割しか担っていないのでしょうか?
それは違うと思います。
勇作もキンヤとアケミのサポートを受けて、ヤクザな生き方しかできなく、自己完結ですべて終わらせてしまう自分を「このままではいけない……。自分も変わらなければ……」という気持ちに変わっていくのです。
ただ、一生懸命に勇作の気持ちを変化させようと、キンヤとアケミを説得するのですが、二人が出来ることは、あの鯉のぼりの竿がある勇作の自宅に連れていくまでです。
それでは真に勇作を変化成長させた人物、真の副主人公とは?
それは無数の黄色いハンカチを竿に掲げた倍賞千恵子さん演じる勇作妻、島ミツエなのです。


つまり『幸福の黄色いハンカチ』というバディロードムービーは、勇作、キンヤ、アケミ三人の主人公の成長変化を描く物語で、そして三人一度に成長変化させる最大の副主人公は、まさにタイトルであり、モチーフである黄色いハンカチであり、それを掲げた勇作の妻、ミツエなのです。
何度観ても、不覚にも感動してしまうあのラストシーンは、主人公三人を一気に成長変化させてしまう強力なものだからに違いありません。


このような人物配置、キャラクターの作り方、構成の巧みさが全編に渡って、張り巡らされているからこそ、『幸福の黄色いハンカチ』は、日本映画最高傑作という称号が得られるのだと思うのです。



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