シナリオコンクール対策の創作交流サークル「サロン」

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本当は観客、視聴者に対して「説明」したいことなのに、そのことを知っているはずの登場人物に、それを会話で「説明」してしまうシナリオ上の失敗

こんにちは。サロンの吉野です。
昨日はゼミがありました。
シナリオ診断も、ほぼ終わりに近づき、診断を受けられた皆さんの最終的な直しの発表が、昨日は中心になりました。


それらの中で、主人公が副主人公に対して、大きな誤解をしているという設定の作品がありました。
この作品のシナリオ診断における直しのポイントとして、実は主人公は誤解しているんだということを、主人公には、その場では分からせずに、観客、視聴者、そして審査員に分からせなければならない場面を作るように、とのアドバイスをしました。
最終的には、主人公の誤解は解消されるのですが、主人公と副主人公の対立、葛藤軸を作るために、シナリオ構造上、あえて誤解させておく必要があったのです。
ただし、観客、視聴者、審査員には、主人公が事実を知る前に、誤解であることを、伏線として、ある程度提示しておかなければなりません。
直しのポイントは、その場面をどう描くのか?に絞りました。


登場人物に対する秘密 観客、視聴者に対する秘密
この作品の直しのポイントは、主人公が副主人公に対して誤解があるんだということを、『観客、視聴者に分からせる』ことにあります。
つまり登場人物(今回は主人公)には
、誤解であることを「秘密」しておかなければならないケースにあたります。


この点については、作者の方もよく理解されて、何の問題もありませんでした。
ただ、観客、視聴者に対して「説明」をしていく場面にも関わらず、当然、その誤解の事実をお互いに知り合っているであろう登場人物の間で、さも今初めて知ったかのような会話の場面を作られてしまったのです。


登場人物間の関係性をしっかりと作っておく
コンクール作品の内容ですので、具体的にお話できず、何のことかわからない……という方もいらっしゃるかと思います。
別の形で具体例をあげます。


具体例として、娘(主人公)のケーキを、母(副主人公)が知らないうちに食べてしまったのでは?と誤解している話で進めます。


事の真相ですが、ケーキを食べてしまったのは、隣に住む子供でした。
主人公の娘とは幼なじみで、小学校の同級生の関係になります。
隣の家は父親が早く亡くなり、母親と子供2人暮らになります。
結果、とても貧しく、子供は食べるものも食べられないことが頻繁にあります。
隣の父親が生きていた頃は、家族ぐるみで付き合っていて、2家族で一緒にキャンプなどにも出かけました。
そんな隣の子供を見かねた副主人公である母は、娘のおやつであるケーキをあげてしまったのです。
ただ、その事実を娘に話せば、隣の子供のプライドを深く傷つけてしまうと思い、さも自分が食べてしまったかのように振る舞うのでした。


その真相を主人公である娘にはその場で分からせずに、観客、視聴者だけには分からせたい!という場面を作ることを考えます。
例えば、母が父にその真相を語る場面のセリフです。

父「結局、ケーキを食べたのは、隣の××くんなのか?」
母「うん。だって××くんだとは話せないもん」
父「どうして?」
母「隣の家、貧乏でしょ。⚪⚪子とは小学校の同級生だもん。話したらプライドが傷ついちゃうじゃない」
父「そうか…」


上記の会話、何がおかしいかお分かりでしょうか?
そうです。
母と父の会話が非常に不自然なのです。
隣の子供が母親と二人暮らしで貧乏であることは、隣の家と家族ぐるみで付き合っていたこともある父が知らないはずがないのです。
どうしてこんな会話が起こってしまったのでしょうか?
それは観客、視聴者に「説明」するために、登場人物間では絶対に知っているであろうことを、あえて今知ったかのように、会話で「説明」しているからです。



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登場人物間の関係性をしっかりと掴んでおく
嘘のようですが、こういった会話が、コンクールに応募している方の作品でも、少なからずあります。
しかも、書いているご本人は気づかないことが非常に多いのです。
それは話の筋に引っ張られて、肝心の登場人物の関係性について、考えがきちんと及んでいないからだと思います。
いつも言っていることですが、ストーリーよりも先に考えなければならないことはたくさんあります。
テーマ、モチーフ、設定、そして関係性も含めたキャラクター造形です。
そこにしっかりと作っておけば、上記のようなシナリオ上の失敗は防げますので、心に止めていただきたいと思います。



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